AIの学習計画は「TRIZ視点で」の一言で変わる

 

AIに「勉強の計画を作って」と頼むと、たいてい似たようなものが返ってきます。1週目は基礎、2週目は応用、最後に総仕上げ。役に立たないわけではないのですが、参考書の目次を並べ替えただけ、という印象も残ります。

 

ところが、プロンプトの末尾に一言足すと、返ってくるものが変わります。

 

「TRIZ視点で、提案できますか。」

 

TRIZ(トリーズ)は、もともと工学や製品設計のための問題解決手法です。学習計画とは無関係に見えます。それでも、この一言があると、AIは計画を作る前に別のことを考え始めます。

 

この記事では、実際に数学の学習計画を作らせた記録をもとに、何がどう変わったのか、そして資格勉強にどう転用できるのかを整理します。

 

 

先に結論:一言足すだけで、計画の作り方が変わる

 

今回試した範囲での結果を、先に一覧にします。

 

期待すること 試した結果
学習者の経験や趣味を生かす 最も変化が大きかった
計画を考える観点が増える 変化があった
各段階のつまずきどころが出る 追加で質問すれば出る
学習の順序そのものが良くなる 大きな変化はなかった
TRIZの用語を正確に説明する 引用するなら要確認

 

変わったのは、勉強する項目ではなく、計画を作る前提の立て方でした。具体的には次の3点をAIが先に考えるようになります。

 

  • 理想的には、どんな状態になればよいのか
  • 両立しにくい条件を、妥協以外の方法で解けないか
  • 本人がすでに持っている知識・経験・興味を使えないか

 

この3点を分けて考えさせるだけで、単なる勉強項目の一覧から一歩進んだ計画になります。

 

そもそもTRIZとは何か

 

TRIZ(発明的問題解決理論)は、旧ソ連のゲンリッヒ・アルトシュラーらが膨大な特許を分析し、問題解決に繰り返し現れる考え方を体系化したものです。

 

代表的な要素には、次のようなものがあります。

 

  • 理想性:より少ない負担や害で、必要な機能を実現できないかを考える。これを極限まで追った状態を「理想的最終結果(IFR)」と呼びます
  • 矛盾:一方を良くすると他方が悪くなる関係を、妥協ではなく別の方法で解けないかを考える
  • 資源の活用:すでに存在する物、情報、時間、環境を利用できないかを考える
  • 40の発明原理:「分割」「分離」「非対称」「フィードバック」など、解決策を発想するための代表的なパターン

 

もともとは工学のための方法です。したがって、TRIZを学習計画に使えば効果があると科学的に確立されているわけではありません。今回試しているのは、TRIZを教育理論として使うことではなく、TRIZに含まれる問題整理の型を、AIへの指示に借りる方法です。

 

「一流の家庭教師として」だけでは足りない理由

 

AIに役割を与えるのは定番の手法です。「あなたは一流の家庭教師です」と書けば、口調は先生らしくなり、説明も丁寧になります。

 

ただし、口調が変わることと、中身が変わることは別です。

 

この点については研究があります。カーネギーメロン大学などの研究チームが2024年に発表し、Findings of EMNLP 2024に収録された論文では、6種類の人間関係と8分野の専門性から162の役割を用意し、4系統のLLMに2,410問の知識問題を解かせています。

 

その結果、システムプロンプトに役割を書き加えても、役割を書かない場合と比べて正答率は改善しませんでした。問題ごとに最も相性の良い役割を選べば精度は上がるものの、どの役割が良いかを事前に当てることは難しく、ランダムに選ぶのと大差なかったとも報告されています。

 

この研究が測ったのは知識問題の正答率であり、生成される計画の質ではありません。学習計画づくりにそのまま当てはまるとは言えません。それでも、役割指定に期待しすぎない目安にはなります。

 

役割は、話し方と語彙を決めるものです。計画の構造を変えたいなら、構造を指定する言葉が別に要ります。「TRIZ視点で」が効くのは、まさにその位置に入るからです。

 

「TRIZ視点で」を足すと出てくる、3つの観点

 

数学の学習計画を作らせる際に「TRIZ視点で」を足すと、AIは次の3方向から計画を組み立てました。

 

1.理想の状態から逆算する

 

最初に「最終的に何ができればよいのか」を置きます。数学なら「公式を全部覚える」ではなく、問題を見たときに適切な解法を選べる状態を理想に設定する、といった形です。

 

ここが決まると、「何ページ進めるか」ではなく「何ができるようになる必要があるか」から計画を逆算できます。

 

2.両立しにくい条件を見つける

 

学習には、しばしば相反する要求があります。

 

  • 短期間で合格したいが、基礎から積む時間はない
  • 難しい問題を解けるようになりたいが、難しい教材では挫折する
  • 勉強時間を増やしたいが、仕事の時間は減らせない

 

普通の計画では「仕方がないので両方少しずつ」と妥協しがちです。矛盾として書き出させると、AIに「そもそも両方を満たす方法はないか」と考えさせやすくなります。

 

3.すでに持っているものを利用する

 

今回いちばん出力の性格を変えたのがこの観点でした。次の節で詳しく見ます。

 

なお、この3つはTRIZの中核概念とよく対応しています。早稲田大学の澤口学氏によるTRIZの解説によれば、TRIZには「理想性増大の法則」があり、システムの有用機能の合計を有害機能の合計で割った比を「理想性(Ideality)」と定義します。

 

あるパラメータを改善すると別のパラメータが悪化する「技術的矛盾」を妥協なく解くことがTRIZの狙いであり、潜在的な資源を有効に活用するという発想も各技法に共通する土台として説明されています。

 

「TRIZ視点で」という一言は、この3つを別々に書き出させる合図として働いていると考えられます。

 

TRIZとLLMを組み合わせる試みは研究としても行われています。Jiangらが2024年に発表した「AutoTRIZ」は、LLMに40の発明原理の知識ベースを持たせ、TRIZの推論手順に沿って解決案を生成させる仕組みです。

 

ただしこれは工学設計の課題を対象としたもので、学習計画づくりの効果を確かめた研究ではありません。

 

特に効くのは「資源の活用」──苦手を潰さず、持ち物を使う

 

通常の学習計画は、引き算で作られます。できないことを洗い出し、それを埋める。理にはかなっていますが、計画そのものは苦行の一覧表になります。

 

「資源の活用」を指定すると、AIは学習者がすでに持っているものを先に探します。

 

元の検証では、学習者に「アニメが好き」という設定がありました。普通なら、勉強を邪魔するものとして扱われかねない属性です。ところが資源として扱わせると、ガウス積分を「禁断の魔法」として導入する、極座標変換を「円形の魔法陣」に見立てる、といった提案に変わりました。

 

比喩そのものが画期的なわけではありません。重要なのは、「好きなことをやめさせる」から「好きなことを教材に使う」へ発想が反転した点です。しかもこちらから指示していないのに、そうなりました。

 

資格勉強なら、資源はもっと実務的になります。

 

  • 現在の仕事で日常的に扱っている業務
  • すでに得意な科目
  • 毎日目にする帳票やシステム
  • 通勤時間
  • 以前取得した資格の知識
  • 普段使っているExcelや会計ソフト

 

簿記なら、職場で見ている請求書や実際の仕訳を教材と結び付けられます。IT系の資格なら、普段使っているクラウドサービスやネットワーク構成をそのまま具体例にできます。

 

「足りないものを埋める」だけでなく「すでにあるものを使う」。この観点は、TRIZを知らなくても学習計画に取り入れる価値があります。

 

つまずきやすい部分と、考える手順を先に言わせる

 

出力の実用性をさらに上げたのは、計画が出たあとの追加質問でした。

 

各段階の「つまずきやすい部分」を先に特定させる

 

「各段階ごとの、躓きやすい部分を埋める基礎固めの問題を提案できますか」と重ねると、週ごとに「ここで詰まる」という診断と、それを埋める小問が付いた形に変わりました。

 

これが効くのは、学習計画の失敗が「範囲を間違えた」ではなく「途中の一箇所で止まって放置した」という形で起きるからです。どこで止まりそうかを先に書き出しておけば、実際に止まったときに自分がどの段階にいるか判断できます。

 

説明の手順も一緒に書かせる

 

さらに「思考プロセス(問いやつぶやき)も実況中継しながら解説してください」と加えると、答えだけでなく「なぜその方針を選んだか」が文章に現れます。

 

これは、途中の推論ステップを言語化させると複雑な問題での性能が上がるという「Chain-of-Thought(思考の連鎖)」の研究と発想が近いものです。

 

2022年にGoogleの研究チームが発表した論文では、推論の中間ステップを例示するだけで、算術・常識・記号推論の各タスクで性能が改善したと報告されています。
翌2023年にはプリンストン大学などのグループが、複数の推論経路を枝分かれさせて評価する「Tree of Thoughts」の枠組みを提案しています。

 

学習者にとっては、この実況中継があるだけで論理の飛躍が減り、途中で置き去りにされにくくなります。

 

数学で試すと、実際に何が出てくるか

 

元になった検証では、京都大学数学系の院試過去問(平成31年度 基礎科目 問1)の広義二重積分をAIに解かせたうえで、同じ問題を高校3年生が解けるようになる計画を作らせています。

 

AIが出した答えは α/(2 sin α) でした。本稿では独立に数値二重積分で確認したところ、複数のαの値で一致しました。この答えは正しいと言えます。院試の問題を、高校生への説明計画とセットで返してくるところまで来ている、というのが出発点です。

 

ただし「模範解答と一致した」という表現には補足が要ります。参照されている解答は、有志がGitHub上で公開している京都大学数学系の院試解答集であり、大学が公表した公式解答ではありません。信頼できる資料ですが、性格は違います。

 

TRIZ視点を足して出てきた計画は、4週間でガウス積分から二重積分と極座標、二次形式、総仕上げへ進むというものでした。

 

数学の学習順序としては妥当ですが、この順序自体はTRIZがなくても出てきたはずのものです。

 

TRIZが変えたのは順序ではなく、各段階に「なぜこの比喩を使うのか」という理由づけと、「ここで詰まる」という診断が付いた点です。

 

なお、この検証で使われたのはGemini 2.5 Flashです。モデルの世代はすでに進んでおり、Googleの開発者向けリリースノートによれば、2026年8月13日にGemini 3.7 Flashが一般提供されています。

 

プロンプトの構造に関する話なので特定のモデルに依存しないと考えられますが、これは1回の試行の記録であって、TRIZあり/なしを比べた対照実験ではありません。

 

原理名は当てにならない。ただし学習者には関係ない

 

先に結論から書きます。この節の内容は、学習の効果とは関係ありません。

 

学習者は、ガウス積分を「禁断の魔法」と呼ぶ発想が第何原理から来ているかなど考えません。面白く学べて、詰まらずに進めるかどうかがすべてです。その意味では、以下は読み飛ばしても構わない話です。

 

それでも書いておくのは、この記事を読んだ人が誰かに説明する場面があるからです。

 

AIが出した計画には、TRIZの「40の発明原理」の名前が英語名つきで多数登場します。大阪学院大学のTRIZホームページに掲載されている一覧と照合すると、次のようになりました。

 

AIが提示した名称 40の発明原理での扱い
分割(Segmentation)第1原理として実在
抽出(Extraction)第2原理「分離(Taking out)」に対応
非対称性(Asymmetry)第4原理「非対称」として実在
逆転(Inversion)第13原理「逆発想(The other way round)」に対応
動的性(Dynamics)第15原理「ダイナミック性」として実在
フィードバック(Feedback)第23原理として実在
自己サービス(Self-service)第25原理「セルフサービス」として実在
模倣(Copying)第26原理「コピー」に相当
多目的利用(Multifunctionality)第6原理「汎用性(Universality)」に近いが、英語名は一致しない
先取り(Pre-computation)第10原理「先取り作用(Preliminary action)」に近いが、英語名は一致しない
単純化(Simplification)40の原理の一覧に見当たらない
連鎖作用(Chaining)同上
「隠れた特性」の活用同上

 

大半は実在します。混ざっているのは、存在しない名前をつくるパターン(単純化、連鎖作用)と、実在する原理に違う英語名を付けるパターン(多目的利用、先取り)の2種類です。後者は日本語だけ見れば正しいので、気づきにくいほうです。

 

要するに、アイデアの出し方としては使えて、用語集としては使えないということです。学習計画に組み込む分には支障がなく、「これはTRIZの第○原理です」と資料に転記するなら確認が要る。それだけの話です。

 

ちなみに、前述のAutoTRIZが40の原理の知識ベースを外から与える設計になっているのも、同じ問題への対処だと考えられます。専門的な方法論をAIに使わせるとき、名前を呼ぶだけでなく中身を渡すほうが安定する、という一般的な示唆です。

 

資格勉強に転用するためのプロンプト雛形

 

ここまでを踏まえて、資格勉強向けに組み直した雛形です。「TRIZ視点で」と書いても構いませんが、役に立った3つの観点を直接書いたほうが、誰が使っても同じ結果になります。

 

冒頭の役割指定は、語彙と口調をそろえるためのものです。計画の中身を決めているのは、そのあとの3つの観点です。

 

あなたは、この試験の指導経験が長い講師です。
【現在のレベル】

【試験までの期間】

【1日に使える時間】

【得意分野】

【苦手分野】

【仕事や生活の中で使えそうな経験・知識】


次の順番で考えてください。
1. 最終的に何ができれば合格に近づくか

2. この学習者が抱えている「両立しにくい条件」を1文で書き出す

3. その条件を、単純な妥協以外の方法で解決できないか

4. 学習者がすでに持っている知識・経験・時間・環境を、教材として使えないか

5. 以上を踏まえた週単位の計画

6. 各週でつまずきやすい箇所と、それを確認するための短い問題を3問ずつ

 

計画が出たら、詰まった箇所について次のように重ねます。

 

この論点をまだ理解していない学習者に教えるとき、最初にどこへ注目させますか。解法を選ぶ判断基準を、途中のステップが追える形で説明してください。

 

4番が、今回いちばん効いた項目です。ここを空欄で出すと普通の計画に戻るので、自分の仕事や生活から思いつくものを具体的に書いておくと結果が変わります。

 

まとめ

 

「TRIZ視点で」の一言で変わるのは、勉強する項目ではなく計画を作る前提でした。

 

  • 最終的にどんな状態になればよいのか
  • 何と何が両立しにくいのか
  • すでに持っている知識・経験・興味を使えないか

 

なかでも3番目が大きく、苦手を潰す計画から、持ち物を使う計画へと発想が反転します。「つまずきやすい部分」と「考える手順」を追加で聞けば、そのまま使える粒度まで下りてきます。

 

一方で、学習の順序そのものが劇的に良くなるわけではありません。魔法の呪文ではなく、AIに考えさせる項目を増やす道具だと思っておくのがちょうどよさそうです。

 

TRIZの用語をAIに語らせると実在しない原理名が混ざりますが、これは学習の効果とは別の話です。学習者は原理の番号など気にしません。気にすべきなのは、資料に書き写すときだけです。

 

役割を与えるプロンプトが口調を決めるものだとすれば、枠組みを指定するプロンプトは出力の骨格を決めるものです。AIに何者になってもらうかより、何を分けて考えてもらうか。今回いちばん実用的だった結論はこれでした。

 

この記事の元になった、数学の院試問題を使った検証の全体は、こちらの記事にまとめられています。

 

参考資料

 

 

本稿の数値および各サービスの状況は2026年9月4日時点で確認したものです。